INTERVIEW
自治体DXは現場の一歩から。プログラミング未経験の三豊市職員が「例規改正AI」を開発するまで
条例・例規等の改正案を作る作業を、AIで支援できないか。三豊市役所の伊藤さんは、プログラミング未経験から「例規改正AI」の開発に挑戦しました。行政の現場課題から始まった取り組みと、約3か月の研修で得た学びを伺いました。
- 条例・規則の改正案を手作業で作成し、部署間で資料の品質にばらつきがあった
- 審査担当部署の確認負担を軽減するため、定型作業を効率化したかった
- AIを使った業務改善の方法を学ぶ機会・知識が限られていた
- 自然言語の指示から例規の改正案を作成する「例規改正AI」を試作
- プログラミング未経験から、検索・スクレイピングなどの手法を習得
- 実用に向けた改善を継続し、庁内展開を目指す
地域のAI人材育成に携わるなかで、学びを深めたかった
―現在の仕事と、今回の研修に参加したきっかけを教えてください。
伊藤さん:三豊市役所の仕事と並行して、AI人材の育成や地域の企業に対しAXに関わるMAiZMに派遣され、自分自身のAIの知識も高めておきたいと思いました。以前、短期の研修を受けたこともあり、もう少し深く学べる機会を探していました。


行政の例規改正に残っていた、定型的な手作業
―なぜ「例規改正AI」を開発テーマにしたのでしょうか?
伊藤さん:条例・例規等の改正は、いろいろな部署が関わる仕事です。対象の規則を調べ、改正箇所を示す資料を作成しますが、手作業の部分が多いです。資料の仕上がりに差があると、最後に審査する部署にも負担がかかります。
例規改正には、対象条文の確認、表現の置き換え、改正前後の違いの表示など、決められた工程があります。このうち定型的な部分の効率化を目指しました。
例規改正AIの仕組み|自然言語で改正案を作り、職員が確認
―開発した「例規改正AI」は、どのように使うツールですか?
伊藤さん:対象となる条例・例規等に対し、どの文言をどう変更するかを伝えると、AIが改正案の作成を支援します。最終的な確認は職員が行う形です。
想定する流れは「対象例規の確認 → 改正内容の入力 → AIによる案の作成 → 職員の確認・修正 → 正式な審査」。AIによる自動改正や、法律上の最終判断を行うものではありません。
―開発の完成度や、今後の課題はいかがですか?
伊藤さん:実用的なレベルのものは作れました。ただ、プロンプトの書き方で結果が変わります。AIに詳しくない職員でも安定して使えるよう、まだ改善が必要です。
例規改正AIの業務フロー|AIと職員の役割分担

| 工程 | 担当 | 入力・処理内容 |
|---|---|---|
| ① 改正対象を確認 | 職員 | 対象となる条例・例規等、変更したい箇所を整理 |
| ② 改正内容を指示 | 職員 | どの文言をどう変更するか自然言語で入力 |
| ③ 改正案の作成 | AI | 入力内容に沿った文言修正案を生成 |
| ④ 内容を照合・修正 | 職員 | 出力内容を目視で確かめ、必要に応じて修正 |
| ⑤ 正式な確認・審査 | 自治体の担当部署 | 所定の手続き・判断は従来どおり人が担当 |
この仕組みには、研修で学んだ「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)」という考え方が取り入れられています。これは、AIに作業の一部を任せながら、人が確認・修正・判断に関与することで、AIの利便性と業務の正確性を両立させる仕組みです。
今回の試作では、AIが条例・例規等の改正案を作成し、職員がその内容を確認・修正する役割分担を採用。AIが条例・例規等を正式に改正するのではなく、最終的な確認・審査は従来どおり自治体の担当部署が担います。
単にAIで作業を自動化するのではなく、「AIに任せる工程」と「人が責任を持って判断する工程」を明確に分けることで、行政業務における安全で実用的なAI活用を目指しています。
「こういう解決方法もある」と考えられるようになった
―研修前と比べて、ご自身にどんな変化がありましたか?
伊藤さん:業務そのものが一気に変わったわけではありません。でも課題が出てきたときに、AIでの検索やスクレイピングなど、以前は知らなかった方法を考えられるようになりました。
AIにコードを書いてもらうだけでは、正しい結果かどうか判断できません。目的を整理し、何を確認したいのかを理解して指示することの重要性を、実践を通じて学びました。

初めての開発で、講師のアドバイスが力になった
―苦労したことや、支えになったサポートはありますか?
伊藤さん:学生時代から触れていなかった分野なので、仕組みを理解するのが難しかったです。特に作り始めたとき、先生のアドバイスが役立ちました。
―研修のカリキュラムや進め方はどうでしたか?
伊藤さん:教材が豊富でした。週1回のペースで課題に取り組み、次の週までに進める流れもよかったです。一方、受講生同士でももっと早い段階から名刺交換や情報交換ができれば、その後の仕事にもつながったと思います。
AIを使う人と使わない人の差を、広げたくない
―今後、どのように周りの職員へ広げていきたいですか?
伊藤さん:まずは同じ部署の職員に、こういう作業ならAIでできる、ということを紹介したいです。AIを使う人と使わない人に分かれてしまわないよう、機会があれば学んでほしいと思います。

自治体DX研修を広げるには、予算確保と現場の課題への接続が重要
―自治体でこのような研修を広げるうえで、何が必要だと思いますか?
伊藤さん:自治体では、研修への参加にあたって前年度からの予算確保が必要になることもあります。そのため、計画的に学びの機会を設けることが大切だと感じています。また、「AI」という技術そのものを学ぶだけでなく、普段使っているExcelの自動化など、日常業務に直結するテーマのほうが、職員も活用をイメージしやすいと思います。
自治体DXを推進するうえでは、研修の機会を計画的に確保するとともに、職員が日々の業務課題と結びつけながら学べる環境づくりが重要です。
技術の習得にとどまらず、学んだ知識を実際の業務改善へとつなげること。 そうした実践的な研修の積み重ねが、自治体全体のDX推進を支える一歩となります。
まとめ
三豊市の事例は、AIに行政判断を委ねる話ではありません。定型的な手作業を見直し、人が判断すべき業務に集中するための手段を探る取り組みです。技術の理解と業務の理解を結びつけ、試し、修正し、同僚へ伝える。自治体DXはこうした現場の一歩から動き出します。
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